積ん読雑記

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2009年9月24日(木) 女性が書いた恋愛小説を読むということ(No.46)

小池真理子『熱い風』(集英社)

当代有数の恋愛小説の書き手による新作である。小池真理子の作品は恋愛小説の中にミステリーの風味が加わり、読み手を存分に楽しませてくれるのが魅力である。さらに、この『熱い風』ではヨーロッパの街や鉄道を舞台として取り上げ、この著者独特のおしゃれな作品に仕立てあげられている。
女性が書いた恋愛小説を男が読む時、どこか面映さを感じてしまうのは考えすぎだろうか? しかし小池真理子の作品はとてもエキサイティングでもある。私には計り知れない登場人物の心の動きやイマジネーション豊かな物語の香りが行間に満ち満ちているのである。本作品はまさにその典型であり、異郷のファンタジーを読むような感覚が味わえる。
主人公・高橋美樹は婚約者・根津遼平の突然の死の知らせを受ける。いつもの快活な遼平との国際電話による幸福の絶頂の会話。その直後の不幸のどん底への訃報。悲しみとともに美樹の心に芽生える遼平への不信。「彼は私を愛してくれていた。そのことは・・・・・・疑ったことがない」。しかし、彼の心の闇をどれだけ知っていたのか? 美樹は遼平の死の真相に迫ろうと、彼が死をむかえた地、アムステルダムに向かう。「予知不安のようなものを抱いていたように思う。自分が知り抜いていたはずの男の中に別の男を見つけるのではないか・・・・・・猜疑心がつのってくるのを覚える」「真実など、知ろうとしないほうがいいのかもしれなかった」。東京からパリ、ブリュッセル、アムステルダムへと続く美樹の本当の遼平を探すための旅。真実を知ることの言いようのない恐れ。そして美樹をアムステルダムで待っていたものは?
最も身近な存在であるはずの婚約者をどこまで知っていたのか、理解していたのかという不安。それが不信につながる時の心の葛藤。そしてそれが解き放たれる時の新たな飛躍。婚約者の本当の姿を知るための主人公の旅は、彼女自身を見つける心の旅だったとも言える。小池真理子の恋愛小説にまたひとつ新しい魅力を加える作品だ。
 前半は過去(回想)と現在とが章ごとに語られているが、後半では同じ章の中に両者が混在していて映像のフラッシュバックのような効果をもたらし、結末へ読者を一気に誘い込む語り口は、この著者ならではのリズム感もある。秋の夜長にふさわしい小説である。

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Akiary v.0.61