積ん読雑記

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2010年6月25日(金) サッカー、もうひとつの楽しみ方(No.59)

戸塚啓『新・サッカー戦術論』(成美堂出版)

常に試合が流れているスポーツ、例えばサッカーやラグビー。一方、ゲームの中にいつもインターバルを持つスポーツ、例えば野球。同じボールゲームであっても両者は決定的に質を異にする。そして、その事によって試合への監督の関与も歴然と違ってくる。野球はプレーの中断のたびに、極端に言えば一球ごとに監督の指示が選手に伝達される。試合開始から終了まで監督はゲームを支配しているが如くである。しかし、サッカーの場合は監督の意向を逐次試合に反映させることは難しい。ピッチサイドのテクニカル・エリアから監督が選手たちに声は掛けられるものの、瞬時にひと言で伝えるしかない。野球のように試合を止めてこまごまと作戦を指示することは不可能である。よってサッカーは選手に自立的な思考を促す要素が強い競技であると思うが、もう一方で監督にチームの基本的戦略や戦術を日頃から確立させることを要求するスポーツでもある。平素の練習やミーテイングにおいてチームの戦い方、基本思想をいかに選手一人ひとりに浸透させていくかは監督の最も重要な役割と言えるだろう。
本書は、サッカーチームにとってゴールキーパー以外の10人の選手にどのようなポジションを取らせるかという戦型がいかに重要か、そしてそれはチームの戦い方の根幹であることを教えてくれる。それを知ることによって選手の個人技を堪能するだけではなく、組織としてどのように機能し、チームの特徴をどこに見出そうとするのかというもうひとつの楽しみ方を私たちに与えてくれる。
冒頭、著者は「僕は戦術論者ではない」と明言する。「戦術論が交わされるたびに、僕は居心地の悪さを感じていた。もっとおおらかに、もっとリラックスして、このスポーツを楽しんでいいんじゃないかとも思ってきた。布陣だ!戦術だ!システムだ!フォーメーションだ!と、肩に力を入れることなく」。その著者がある日、前日本代表監督イビチャ・オシムと現名古屋グランパス監督ストイコビッチの対談に接したことで、戦術論すなわちサッカーの戦い方に関する世界の最新理論がどれほど刺激的なテーマであるかに目を開かせられた。そしてサッカーの流儀(システム)を知ることは世界の名将(監督)たちの「思考回路を探ることができる」のだ。サッカーのもうひとつの楽しみ方をみんなに教えたくしょうがないという心情が垣間見える本である。
ここに紹介されている事例の多くには、ヨーロッパの一流クラブチームを取り上げている。現在、サッカー界は四年に一度のワールドカップに集まる各国代表チームよりは、豊富な資金力と高い人気を背景に国を超えて優秀選手を集めることが可能なクラブチームの方が実力度が高い。そして各国代表からの選りすぐり集団は戦術的にも最高、最新のパフォーマンスが必然的に生れる。時あたかもワールドカップに触発されたならば、日本選手もあこがれてやまない英国、ドイツ、スペイン、イタリアのクラブチームを知る手懸りとなる本でもある。やや専門的内容と言えなくもないが、これを読んだ上でワールドカップ総集編を振り返るならば再発見があるかもしれない。

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Akiary v.0.61