積ん読雑記

バックナンバー

[先月] [目次] [来月] [最新版] [トップ]

2010年11月9日(火) 言葉が紡ぎだす不思議の世界(No.62)

泉鏡花『外科室』(ポプラ社『百年小説』所収)

泉鏡花というと大家たちがこぞって賞賛している印象が強いせいか、手強さが先にたつ。
『外科室』は短篇ではあるが、おそるおそる読み出した。しかし、意外や意外。とてもリズム感があって私には読みやすかった。一つひとつの語句は今では死語に近いものも多く、幾分かの分かりづらさは避けられないが、文章の心地よいリズムを失いたくなくていちいち辞書を引かずに先に進んだが、文脈がしっかりしているのであろう、大意を読み外す心配はなかった。古き良き日本文学を彷彿させる文章である。
語り手である予(私)は兄弟にも勝る親友の医学士高峰の執刀する手術に立ち会う。語り手は部外者にも関わらず、画師(画家)という特別な地位を利用としてその場に居合わせることになったが、つまりは好奇心のなせる業でもある。
病院側、患者の関係者たち、いずれの立会人もそれ相当な人たちであるのは患者が伯爵夫人であるからして当然ではあるが、真実を知るのは高峰と伯爵夫人を除けば予(私)のみである。遡ること九年前の五月、高峰と伯爵夫人はつつじの花盛んな植物園で一瞬の遭遇をしていたのであるが、他の人たちは知る由もない。今、患者と執刀医という立場で再会
を果たしたが、長い歳月を超えて二人の想いは固く結ばれる。鏡花ならではのロマン主義的結末は現代には馴染みにくいストーリーと見ることもできるが、フィクションとして堪能させてくれる作品でもある。
手術の描写などは耽美主義者鏡花の面目躍如であるが、それこそは鏡花作品を好むか否かの分岐点でもあるだろう。私には三島由紀夫を想起させる一作であった。
この作品は吉永小百合主演で映画化されたそうであるが、どのように仕立て上げられているのか、そちらも是非見てみたい。

[先月] [目次] [来月] [最新版] [トップ]

honya@kotonoha-shorin.jp
Akiary v.0.61