積ん読雑記

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2011年1月10日(月) 知性派タモリ、面目躍如(No.63)

タモリ『タモリのTOKYO坂道美学入門』(講談社・2004年10月初版)

福岡県出身のタモリが東京の坂道について、その歴史、美観、周辺の見所等々を余すとこなく紹介している。ここに出て来る坂道の多くは東京出身者でも(当人のゆかり若しくは生活圏内の地域を除けば)知らない所が多いのではないだろうか。いつぞやNHK「ブラタモリ」で本郷台地を取り上げていたとき、タモリの東京の地形についての蘊蓄に感心したものだが、この本ではさらにその博識振りを遺憾なく発揮している。『笑っていいとも!』だけでも平日の昼間の時間帯はほとんどつぶれるだろうに、足で隈なく調べ上げた成果は坂道の美しい写真とともに上質な散歩ガイドに仕上がっている。
ビートたけし、明石家さんまとともにお笑いタレントの「BIG3」だそうだが、この3人、芸風も趣味趣向も随分と違うように思える。例えば政治問題や社会的事象に対する対応を見れば3者の相違は明らかだ。ビートたけしは"言いたいから言う"が、さんまは"言えないから言わない"。タモリもその分野への発言は少ないが、"言えるけど言わない"タイプという点では、同じ「言わない」でもさんまとは大きな違いがある。
政治的、社会的テーマではないが、これはタモリの知性の一端をうかがい知るに恰好の本である。本書冒頭において、自身の生まれ育った家が長い坂の途中にあったことを回想しながら、「人間の思考、思想は要約すると傾斜の思想と平地の思想に大別することができる」と述べる。そしてハイデッガーとキルケゴールの思想までをも持ち出して対比させる。文末に「お笑いタレント」らしく「落ち」も付いているが、それが却って文章全体を際立たせる見事な効果を引き出している。
坂道の鑑賞ポイントは、@勾配の具合 A湾曲のしかた Bまわりに江戸の風情をかもしだすものがある C名前に由来、由緒がある、の4つだそうだ。本書を抱えて、東京の坂道散策も悪くない。因みにタモリは「日本坂道学会」の副会長であり、会長は某出版社の重役という。この本の新刊が出た時点では会員は会長と副会長の二人だけだそうだが、その後、入会した読者はいたのだろうか?

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Akiary v.0.61