積ん読雑記

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2011年2月28日(月) 熱い感動を伴う少年たちのひと夏(No.64)

湯本香樹実『夏の庭』(新潮文庫)

昨今は死を身近に感じる機会は少ないように思う。毎日の新聞やテレビでは次々と事件や事故で人の死が報道されるし、ドラマでもそれに似たような場面は多数見かける。しかし、大半の人たちは実感をもってそれらに接してはいないだろう。日本の在宅死と病院死の割合を見ると、1945年頃は在宅死が80%であったものが今では反対に病院死が80%以上に達しているそうだ。生活の中で人の死に接する機会が失われた分、生と死の重みが体感できなくなったのかもしれない。
この本の主人公は少年たちも、人の死とは全く無縁な普通の小学生である。メガネの河辺、でぶの山下、そしてぼく、木山は仲良し三人組だ。仲間のひとり、山下の田舎のおばあさんが死んだ。山下は死んだ人が家にあるトラのぬいぐるみと同じようになんの動きもしない物体にしか見えなかったことにショックを受けたようだ。ぼくも河辺も死んだ人を見たこともない。怖いもの見たさの少年たちの好奇心は、近所の古い木造の平屋に住む一人暮らしのおじいさんに向かう。「うちのおかあさんと隣のおばさんが、あそこのおじいさん、もうじき死ぬんじゃないかって言ってた」河辺の思いつきでその日から少年たちの見張りが始まった。少年たちの“不純な動機”は思いもしない方向に彼らもいざなうことになる。
おじいさんとの交流、おじいさんの家と庭で学ぶ包丁の使い方やペンキの塗り方等々、彼らに忘れえぬひと夏の想い出を残す。ここから先は本書を読んでいただきたいが、少年の物語とは言え、大人たち読者にもそれぞれの体験をオーバーラップしながら、こみ上げて来るものを抑えることは出来ないだろう。
のっけから人の死について述べてしまったが、これは決してじめじめしたお話ではない。しかし、さわやかさとともに熱いものも脈打つ物語である。「オレ、もう夜中にトイレにひとりで行けるんだ。こわくないんだ」、結びの山下のひと言に少年たちの成長が分かりやすく凝縮されている。
解説によれば映画化もされているようだが、どんな少年たちが演じたのか是非観てみたい。



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